「社会で輝き続けるためのスキルアップセミナー(第2回)」開催レポート

令和元年度女性活躍推進事業「社会で輝き続けるためのスキルアップセミナー」

第2回 人生100年時代―成長し続ける私②「明日が変わる!『伝えるチカラ』講座」

<開催レポート>

令和2年2月15日(土)13時30分~16時

 

<リード>

「あの人には私の言いたいことが全く伝わらない…」。こんな時、伝わらないのは相手の責任?それとも…?スキルアップセミナー第2回目は、「伝えるチカラ」を育てるための様々な活動を行うTHINK-AID主催の狩野みきさんを講師に迎え、自分の思いを自分の言葉で「伝える」ためにはどのように筋道立てて考えていけば良いのか、また「伝える」ためのコツにはどのようなものがあるかについて、グループワークを交えながら学んでいきました。

 

●他人の評価が気になるのは他人の視点を持っているから

私は大学で学生たちに向けて約25年、この10年は小学生にも、「考える」「伝える」を教えています。「伝えること」は「考えること」とまさに背中合わせで、両者は密接につながっています。今日はセミナーを通じて皆さんにそのことを体感していただければと思います。

事前に皆さんが書いて下さった申し込みフォームの自由記載欄を拝見した際に、周りに自分の思い、考えを伝えたくても「間違っていたらどうしよう」とか、「馬鹿だと思われたらどうしよう」と焦ってうまく話ができないというエピソードを書かれた方が少なからずいらっしゃいました。私は、20年以上“教える”という仕事に携わっているので、「人前で話す」ということでいえば、授業の時は一切緊張いたしません。ところが、保護者会などで子供の学校に行き、皆さんと同じような“親の立場”での懇談会参加となると…とたんに緊張してしまい、発言を求められた時など、おずおずとした態度をとってしまうことがよくあります。ですから、人前で話をするのは苦手だと感じる皆さんのお気持ちは本当によくわかります。では、少人数の懇談会ですら口籠もってしまう私が、なぜ大勢の前で堂々と話をすることができるのでしょうか?それは私が緊張症であるがゆえに、どうすれば緊張しないで自分の気持ちを伝えられるのか、緊張しないためにどうするか等、子供のころから考えを深めてきたことが大きいのではないかと思っています。

ここで1つ皆さんにお伝えしたいことがあります。「人から馬鹿だと思われたらどうしよう…」と躊躇することは、実は素晴らしい!ということです。なぜかというと、そこにはいつも他者の視点があるからです。これだけインターネットが発達して、SNS等を使って自分の名前や顔を出さなくても色々な発信ができる時代にあって、「他の人はどう思うのか」と、自分軸以外の視点を持てるのは、本当にすごいことです。どうぞその感覚を大事にして下さい。色々な視点で考えたからこそ、自信を持って自分の意見を他者に伝えられるようになるのです。

 

●意見に正解・不正解はない

色々な視点を持つということは、「考える力」の大事な柱の1本です。他人とのやり取りを頭の中でシュミレーションしていくプロセスで“自分の意見”は深まっていくもの。独りよがりではなく、色々な事柄をふまえた上で想像をめぐらせ、他の人の立場で考えたからこその結論、それは最終的に誰かに向けて話した時に、「この人は色々な角度から物を考え抜いたんだな」と思わせ聞き手の胸を深く打ちます。

そもそも意見というのは、人が考えたことです。当たり前のことですが、ここがとても重要なポイントです。人の考え、意見というものは個々人の経験に裏打ちされたものです。価値観は経験の積み重ねによって形作られます。となると、一卵性双生児のようにどんなに似ている人であっても、全く同じ意見を持つということはおそらくできません。なぜならば、双子であったとしても、全く同じ経験をするということは不可能だからです。ということであれば皆さんの顔が1人1人違うのと同じように、この世の中に全く同じ意見というものは存在し得ないし、元来、意見が1人1人違うのであれば、そこに「正しい意見」や「間違っている意見」というものはないはず。意見が違うことと間違っていることは全く別物である。まずはこの大前提をご理解いただきたいと思います。

ただ、皆さんもお気づきのこととは思いますが、世の中そんな綺麗ごとだけでは立ち行きません。「あなたの意見はとてもいいですね、でも私は違います」、「あぁ、そうなんですね」で済めば、誰も言い争いなどしないでしょうし、もしかしたら戦争も起きないかもしれません。でも私たちは感情で生きているので、“正解は無い”と分かっていてもつい、「私の方が正しい!」と思う瞬間があります。思ってしまうこと自体は、自分ではどうしようもありません。ただそんなときはひと呼吸おいて、「意見に正解、不正解は無い」ということを思い出すクセを付けるようにしてみて下さい。「伝えること」と同じように「考えること」も“クセ”なので、お題目のように自分に言い聞かせることが大切。ずっと言い聞かせていると、必要なときには、反射的に「意見に正解、不正解は無い」というフレーズが出てくるようになるかと思います。

 

●「話し手責任」で相手を思い、言葉を選ぶ

私たちは今、いわゆるグローバル時代に生きています。そこで大事になってくるのが、「話し手責任」と「聞き手責任」と言われる考え方です。「話し手責任」は、読んで字のごとくコミュニケーションが成り立つかどうかの責任を全て話し手側が負う言語文化です。一方、「聞き手責任」はその逆で、私がお話をして皆さんが理解できなければ、「悪いのは皆さんのせいです」という考え方になります。

英語は「話し手責任」、日本語は「聞き手責任」と言われています。話し手は言いたいことの一部分だけ言えば、残りは聞き手が空気を読んで察してくれる。「ねぇねぇ、お母さん、あれ取って」と言えば、お母さんが心を砕き、頭をフル回転させてその都度「あれ」の穴埋めする。これが「聞き手責任文化」です。一方で、例えば英語ネイティブのアメリカ人は、1日に何十回も「You know what I mean? (私の言っていること、分かる?)」というフレーズを口にします。なぜかと言うと英語は「話し手責任」なので、自分が話そうとしていることを相手がわかっているかどうか常にチェックし続けないと自分の責任が果たせないのです。

伝えるということは、この「話し手責任」をどこかで意識しなければならないことなのではないかと私は思っています。特に今の時代はこの意識化がとても大切です。異文化コミュニケーションの専門家のエリン・メイヤーさんという方も、共通の文化的背景を持たない人々と話すのが当たり前になったグローバル時代、お互いに理解し合うには、元々の言語文化に関わらず、みんなが「話し手責任」で話さないといけないと言っています。また、「話し手責任」を放棄して、いつも聞き手に穴埋めしてもらっていると、自分が本当は何を考えて、何を伝えたいのかという意識が弱まって、考えなくなってしまう。考えなくなってしまうと、伝えることがなくなり、ますます自分の考えがわからなくなる。まさに悪循環。なので、今日皆さんに意識をしていただきたいのは、ズバリ一言「話し手責任」で考えて話すということ。実際に誰かと話をしなくても、自分の中のもうひとりの自分に「話し手責任」で言葉を選んで語りかけていると、だんだん皆さんの考えはギュッと明確になり、「伝える力」がどんどん上がっていきます。言葉を選ぶということは、自分が伝えたい内容をどうやったら気持ち良く正確に他者に伝えることができるかという、つまり「話し手責任」的に相手のことを考えながら、自分の気持ちを表現するのにぴったりな言葉を見つける作業でもあるのです。こうしたプロセスを経て研ぎ澄まされた言葉、あるいは温かな豊かさを持った言葉こそが、聞き手に響く心を動かすプレゼンテーションにつながるのだと思います。

 

<グループワーク1>

狩野さんがプレゼンテーションで一番大事なポイントとしてあげられたのは“アイコンタクト”。相手の目をしっかり見ることで、聞き手に安心感を与えることができ、円滑な相互理解を促すことにつながります。

 

<グループワーク2>

『思いっきりおバカなビジネスプラン』

事前に提出してもらった『思いっきりおバカなビジネスプラン』。そのおバカな点だけは活かして、素晴らしいビジネスプランに変える。条件は、

①人々がその商品やサービスに価値を感じる。

②その商品・サービスにお金を出してもいいと思えるようにする。

③同じような商品・サービスはまだない。

ポイントはとにかく楽しむこと。難しく考えないで「話し手責任」でワクワクしながら考える。

<出された課題の例>

・老眼で書類を読めない法律事務所。

・嫌いな食材のみで構成された料理を出すレストラン。

・絶対魚が釣れない釣り堀。

等。

 

グループワークの後、有志によるプレゼンテーションが行われました。どのグループも、伝えたい気持ちを前面に出しつつ、“アイコンタクト”や“話し手責任”を意識しながらのプレゼンで、「伝えることの楽しさや奥深さ」を会場全体でシェアすることができました。『おバカな条件』にも関わらず、利益を出すため様々な媒体やメーカーとのタイアップを考えたり、バリアフリーや地域社会の活性化にも気を配ったりで…大真面目で、でもどこか笑える独創的なビジネスモデルがたくさん登場し、大いに盛り上がりました。

 

●「伝えたい」気持ちが何よりも大切

伝える上で何より大切なのは「伝えたい」気持ちだと思っています。そしてまた、今、皆さんがプレゼンテーションを経験しお感じになったかとは思いますが、借り物の言葉を使わないで「自分の言葉で話す」ということも、大変重要なことです。世の中に情報があふれ、どこかで聞いたような手垢のついた言葉やアイデアがそこら中に転がっている中、必要なのは、話す前に「本当にそう思っているか」ということを自問することです。さらに「自分の気持ちは、本当にこの言葉で表現できているか」も自問して下さい。これを習慣づけていくと、いざという時 (大勢の前で自分の意見を述べる、上司の前でプレゼンをする…etc) に素晴らしいパワーが生まれます。自分の言葉で伝えるとは、普段何もしないでいて、いざという時に、自分の心から沸き出る言葉を口にできるというものではなく、常に頭の中で、心の中で、考え抜いた言葉で伝えるということなのだと思います。日々の小さな積み重ねが皆さんの「伝えるチカラ」を確実に伸ばしていきます。どうぞ2つの問いかけー「本当にそう思っているか」、「自分の気持ちは本当にこの言葉で表現できているか」をクセにして、自分の言葉で、自分の気持ちや考えを伝えることを臆することなく、色々な場で試していって欲しいと思っています。本日はご清聴ありがとうございました。

 

―参加者の声―

・話し手責任という視点で考えたことがなかったので意識していきたい。

・伝えることは苦手と思っていましたが、日常からクセをつけることで、克服できるような気持ちになりました。

・初めての参加でしたが、狩野さんの人柄や雰囲気を肌で感じることができ、とても楽しかったです。

・意見は経験等に裏打ちされているので、同じ意見の人はいないという考え方に勇気をもらいました。

・「おバカなビジネスプラン」のワークは、はじめは難しいと感じましたが、話し始めると様々なアイデアが浮かんで楽しい時間になりました。

(アンケートより一部抜粋)

 

ページトップへ