「働く女性全力応援セミナー」講演録(第2回)

令和元年「働く女性全力応援セミナー」

第2回「次のキャリアステップに向けたマインドセット~自分なりのリーダー像を描く」開催レポート

令和元年9月14日(土)13時30分~16時

 

東京都の調査では、管理職に占める女性の割合は約1割。役職別では役員が7.5%、部長相当職で6.0%、課長相当職で9.3%。10年前と比べても微増に過ぎません。上司から管理職になることをすすめられたときに「引き受けない」または「現時点ではわからない」とした理由を女性に聞くと、約6割が「現在の自分の能力では自信がないから」と答えています。

そのような現状を踏まえて、「次のキャリアアップに向けたマインドセット」のテーマで、管理職を目指す女性に向けたセミナーを開催しました。今回、講師として、日本マイクロソフト株式会社執行役員チーフラーニングオフィサープロフェッショナルスキル開発本部長の伊藤かつらさん、パネリストとして、JR東日本コンサルタンツ株式会社執行役員営業本部副本部長((一社)土木技術者女性の会東日本支部長)の小林千佳さん、フォーキャスト株式会社マーケティング部統括マネージャーであり、元クックパッド株式会社編集長である草深由有子さん、の3名の現役女性管理職をお招きして、管理職になったきっかけ、管理職としての成長、管理職になる方へのアドバイス等を伺いました。

- 自己紹介タイム -

伊藤かつらさん(以降、伊藤さんとする):外資系IT一筋です。Microsoft10年目、役員になって7年目。今は4回目の新規組織の立ち上げで忙しい日々を送っていますが、仕事は楽しいと思っています。


草深由有子さん(以降、草深さんとする):15年在籍していたベネッセには女性が多く、女性管理職のロールモデルがたくさんいた中で育ちました。そこからクックパッドに移り、さらにRetty、現在はフォーキャストという新規事業の会社にいます。そうして移っていく中で、いろいろな会社の女性と話していると、皆さん、女性の先輩が少なくロールモデルがいないという話をなさいます。ロールモデルが多彩な中で育った私は、すごく恵まれていたんだと今、身に染みて感じています。

小林千佳さん(以降、小林さんとする)1990年にJR東日本に土木職採用で入り、国鉄以来、初めて女性が土木に入ったと言われました。以降、たくさんの女性が土木に入っています。来年で30年、ずっと同じ会社です。2000年に結婚し、同年に管理職に登用されました。また、一般社団法人土木技術者女性の会東日本支部長も務めています。37年前に、座談会で土木の仕事をしている女性が集まって意気投合し、今では会員が400名近くいます。


―――参加者の各テーブルでも互いに自己紹介タイム。講師とパネリストは、各テーブルを回り参加者の自己紹介に耳を傾けました。自己紹介に続いて、テーブル毎に挙げた「講師・パネリスト3人に聞きたいこと」がパネルディスカッションの話題になりました。―――

 

- 管理職になったきっかけ -

<質問>管理職は、周りからの評価によって目指されたのか、それとも自分からキャリアを目指したのか、管理職に進もうと思ったきっかけ、決意をお聞きしたい。

 小林さん:87年に国鉄がJRになってから「女性をどんどん活躍させよう」と言う会社の動きがあり、32歳の時に、さいたま新都心の基盤整備をする工事の取りまとめをする工事区長を命じられました。自分から目指したわけではなく、まったくの受け身でしたが、後輩の女性にも活躍してほしいという気持ちもあり、受けました。

研修の中で「役を演じる」というのがあり、演じることは好きだったので、区長を演じるしかない、やるしかない、という感じでした。経営はよく山登りに例えられますが、管理職になったら、麓にいた時には見えなかった経営に近い景色が見えるようになりました。

 

草深さん:出産して復帰して半年で編集長を命じられました。育休復帰後、時短で働いていて、時短って給料が少ない割に業務は変わらないので、時短は損だなと思っていた中、いきなり「編集長に」と言われました。ちょうどその頃、父の病気が発覚したタイミングでもあり、子供も小さいこともあり、「無理です。申し訳ないですけど…」と断ったのですが、上司に「業務命令だからやってください。そうでなければ進退を考えてください」と言われました。非常に悩んでいた時に看護師長をしていたお姑さんに相談したところ、「女性が長をつく役割を任命されることは、世の中でまだまだ少ない。長というものに指名されたということは、すごくラッキーなことだからやりなさい。バックアップするから、他の女性のためにもやるべき。」と背中を押されたんです。その言葉を聞いて、「できる、できない」ではなく、「やる、やらない」で決めて「やってみてダメだったら、その時考えよう」と気持ちが変化しました。その時、指名した上司もムチャぶりだったと思いますが、結果、すごく成長できたと思っているので、今は感謝しています。だからこそ、今では、おじけづいている後輩を後押しするのが仕事だと思っています。


- 管理職での家庭との両立のコツ -

<質問>実際に管理職になった後、どのように家庭と仕事を両立させていったのでしょうか。

 草深さん:毎日定時に帰っていたものの、帰ろうとした瞬間に話したいと言われることもあれば、帰宅後に大きなトラブルが起こったこともありました。でも、そこに対応するのは無理ですよね。最初は後ろめたく思ったりしていましたが、できることはやるけど、できないことはできなくていい。別にお母さんじゃなくても、誰しもできないことはありますよね。できないことで自分を責めるのはやめようと決めて、ともかく機嫌よく仕事しようと決めていましたね。上手に両立できていたかはわかりませんがなんとかそうやって回していた感じですね。

 小林さん:当時、本で「女性はそもそも家事しながら子供を見たり、同時に物事の処理ができる」と読んで、それを信じることにしました。(子供が小さい時)けっこう家に早く帰るんですけど、頭の中では仕事のことを考えるとか、子供が早く寝てしまうので、そうしたらまた仕事のことを考えるとか、朝早く起きて洗濯物を干しながら、また考えるとか。会社にいなくてもできることはあったなあと思います。

 

-失敗から学んだこと。管理職としての資質-

<質問>管理職になってから、どんな失敗があったでしょうか。

 

草深さん:あるとき男性の部下が「草深さんに褒めてもらえない」と私のいないところで言っていると聞いて驚いたことがあったんです。one-on-one meeting(個別面談)で、いつも彼を褒めていたからです。それを社外の男性管理職の方に相談すると、「男性はみんなの前で褒めて欲しいのですよ」と指摘されたんです。

女性の部下のマネジメント経験の中で、女性はみんなの前で褒められるのがあまり好きではないので、one-on-oneでは褒めて、みんなの前ではフェアに扱うようにしていました。でも、男性は違うとわかって、みんなの前で褒めるようにしたら、その部下が急激に変わっていきました。まさに、息子と同じ。お父さんの前やおばあちゃんの前で褒めると、すごく嬉しそうなんですよね。

 伊藤さん:多くの人が陥るのが「私が優秀だから管理職になったんだ」という考えで、「だから、このやり方を続ければいいんだ」と、部下が自分と同じようにやることを求めることです。これは失敗への道以外の何ものでもありません。

 草深さん:自分と同じように努力してほしいと思いがちですが、その人の長所と短所があって、その人のやり方がある、ということに気づかないといけないですよね。

 伊藤さん:管理職に資質、素質というものはありません。同じ管理職と言っても、人によって全くタイプが違います。30歳で求められるものと、40歳で求められるもの違いますし、職種でも違います。男性は無駄に自信があります。そんな中で「私なんか…」と言っていたら埋もれてしまいます。「私はプロとして仕事しています」と手を挙げることは大切です。




-大変だった時に乗り切った方法-

<質問>育児や介護などで大変だった時に、どんなモチベーションで乗り切りましたか。

 草深さん:何度もやめようとも思いましたが、そのたびに人に助けられたのかなと思っています。ぜひ、カジュアルに人と繋がって、人と話して、他の視点からの意見をもらいましょう。仕事とは困りごとを解決することです。それを家庭にも応用して、課題解決をしていきましょう。

 小林さん:男職場で男性が相手でも、(彼らにも)奥さんやお母さんがいますので、女性の悩みも打ち明けたら、意外にわかってもらえます。子宮筋腫で入院しなければならなくなった際は、男性の同僚の奥様の体験談を聞かせてもらったこともありました。

 伊藤さん:常にモチベーションを高く持ち続けるのは無理。気を抜く時もあれば、頑張り続ける時もあり、どちらも自分を客観視することが大切です。切れるときは自分をコントロールできない時ですから。

 

-管理職になったときに必要な頑張り度は?

<質問>今の頑張りを1としたら、管理職になった時の頑張りは何倍か。

 草深さん:管理職の頑張りは何倍とかではなく、質が違う気がします。

 小林さん:管理職の役割はチームをまとめること。特に鉄道の場合は、いろいろな技術の複合体です。技術系でも土木と建築、機械、電気など、いろいろな人が調整し合っています。そこをまとめていくことが大事なので、努力の質が変わります。自分がアウトプットするのではなく、チーム全体としてアウトプットを出す立場にあります。

 伊藤さん:管理職になったとたん、リーダーという新しい仕事を始めることになります。そのスキルは自分にはゼロで、これまでとは違う筋肉を鍛える必要があります。

 小林さん:とりまとめのリーダーとしては、みんなの個性を伸ばすようにしています。会社自体が家族的なところがあるので、私は昭和のドラマのおふくろさんとして臨んでいます。京塚昌子さんのような感じにしています。

 伊藤さん:私も、自称品川の母。役員会の中では、空気が読めないおばちゃんキャラです。腹の探り合いしているところに、空気を読まずに発言するようにしています。

 草深さん:私も空気を読まずに「王様は裸」と言う子供の役をやるようにしています。



-管理職になってよかったこと-

小林さん:プロジェクトをチームでできた時に幸せを感じます。今、渋谷の再開発や、山手線の新駅を作るプロジェクトをやっていますが、そういったプロジェクトが完了した時に「開業の美酒」を味わえるのが魅力です。

草深さん:管理職とは役割に過ぎないのですが、責任が増えます。責任を果たすことで、給与も多く支払われる。責任が増えるということは裁量権が増え、できることが増えます。それは単純に楽しい。視座が上がって、見える景色が変わります。よい上司になるということはよい部下にもなれる。楽しいことがたくさんありますから、ぜひ、女性の皆さん、一度、管理職をやってみてください。

伊藤さん:大きくは2つあります。人のモチベーションに影響を与えることができることです。仕事の場でその人たちが生き生きと輝く場やチームを作ることができること。もう1つは、自分も学び続けられる、成長し続けられるということです。

 

-参加者から質問-

<質問>「管理職とは役割である」と仰っていたが、この視点は女性特有のものか、男性の管理職でもそう考えている人はいると思われますか。

草深さん:これからのリーダー像は、間違いなく「役割としてオープンで平等でチームを作れる人」だと思います。

<質問>チームのリーダーとして、チームメンバーのモチベーションを高め、求心力を高めるにはどうしたらよいか。

草深さん:まずは、人をじっくり観察すること。私は、お互いのことを知るためにメンバー全員に自分自身の「取扱説明書」を作ってもらって共有しています。

伊藤さん:「取扱説明書」は、「私はあなたに興味があるのよ」を示すよい方法。真似させていただきます。

 

―――パネルディスカッションの後は、各テーブル毎に今日の話から得た気づき、そこから自分はこうしようと思ったことについて話し合い、各テーブルから1名が発表し、会場は一体感に包まれました。―――

-クロージング~参加者の皆さんへ-

伊藤:今日のテーマは「機嫌よく」。自分の人生が楽しくなくて、自分の部下やチームを楽しくできるわけがない、と。それと、ぜひ皆さま、キャリアの中で自分のメンター、つまりロールモデルであったり、相談ができる人とスポンサー、ヘッドハンターに自分自身を勧めてくれる人を作ってください。

 

―参加者の声―                                                                           

◆持ち帰ることができる学びや発見があるセミナーで、とても有意義だった。

◆多様な立場の3人様で、非常にバラエティに富んだお話に「そっか、それでもいいのか!」と気づきがありました。

◆初めての参加者とコミュニケーションを取り、働く環境は異なるが、とても共感できることがあり、とても刺激があった。

◆管理職になりたくないと思っていた部分もあったが、自分のことだけでなく、後輩のことを考える視点をもつこと、しんどい時に違った視点から自分を客観視することを大切にしようと思った。

◆今の会社の管理職しか知らなかったので、女性管理職の考え方や意見を聞けて、自分が思っていた人物像と違い、キャリアへの考えが変わった。

◆3人の方々の言葉がとても今後の支えになるなと、今、既に実感しています。帰宅したら、振り返って、部下や上司に共有します。

◆「上司イコール優秀、えらい・・・ではない」というのが印象に残った。そこが最も「自分なりのリーダー像」を描くのに役立った。

 

 

 

 

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