「働く女性全力応援セミナー」講演録(第1回)

令和元年「働く女性全力応援セミナー」

【第1回】「育児と仕事のポジティブな関係~チーム育児でわが家らしい両立をつくろう」

<開催レポート>

 

令和元年9月7日(土)13時30分~16時

 

第1子出産前後の女性の就業継続率は約5割と、働く女性の半数が出産によって仕事を辞めています。仕事を続けるために、求められるのは職場のワークライフバランスや保育園の整備等、社会制度の充実ですが、両立に役立つ知識やスキルを知って、悩みや不安を仲間と共有することで解決できることもあります。

今回は、育児経験が、ビジネスパーソンにリーダーシップの向上等のポジティブな影響を与えるという研究を行い、著書『育児は仕事の役に立つ ワンオペ育児からチーム育児へ』(光文社)を出版された浜屋祐子さんを講師にお招きしました。浜屋さんのお話しとチーム育児による両立の工夫について、グループワークを交えて参加者の皆さんと共有しました。

 

●知ってもらいたい「育児は仕事の役に立つ」

(まずは、浜屋さんの自己紹介から)

私の家族は、上の子供が中学校2年生、下が小学校4年生、私は北海道出身、夫は沖縄出身で、親族の日常的な支援は望めない中で、14年間、ほぼずっと仕事をしながら子育てをしてきました。私自身が一つのサンプルでもあります。話の中で役立つことがあればピックアップして持ち帰っていただければ、と思っています。

 

<グループワーク>(自己紹介)

テーマは、名前、参加した理由、最近嬉しかったこと、または、これが私の癒しのひと時

 

(浜屋さんの自己紹介の続きです)

私の著書『育児は仕事の役に立つ ワンオペ育児からチーム育児へ』についてお話しします。以前から薄々感じていた「育児は仕事の役に立つ」ことを研究したいと、仕事を一旦退職して2年間大学に通い、修士論文を書き上げ、まとめたものがこの著書になりました。

この研究で、共働きで育児中の男女400名にアンケートを取り、育児の経験が仕事上の能力向上にどんなふうにつながっているのかについて調査しました。その結果、育児の経験、なかでも周囲の方と連携しながら行うチーム育児の経験は、仕事上の能力向上につながっていることが研究結果として明らかになりました。私は、この結果を広く伝えなければ!と強く思いました。なぜなら、働く母親はどこか罪悪感を持っている人が多いからです。

私自身、保育園へのお迎えのため職場を出る時刻の30分くらい前から、「電話来るな」とか「緊急メールはもう受け付けません」と心の中でつぶやきながら小さくなっていました。保育園にお迎えに行く前に、駅前のスーパーに立ち寄ってササッと買い物をして行くと、その袋を見つけた保育園の先生に「スーパーに寄らずに、1分でも早く迎えに来てください」と叱られたこともあります。

そんな一つ一つは小さな「ごめんなさい」のネガティブな気持ちが、コップに水がたまるようにたまっていって、苦しくなっていきました。お母さんたちだけでなく、保育園のお迎えに行くお父さんたちも職場を抜けづらくて苦労しています。そんな罪悪感に対して、育児が仕事の役に立つというポジティブなメッセージを広く知ってほしいと書籍として出版しました。

 

●育児の実行と体制づくり

「育児」は狭く捉えられがちです。学生に育児で思い浮かべることを聞くと、おむつを変えて、ミルクを作って・・等、直接子供に関わる「育児の実行」を中心に答えます。でも働きながら育児をしていると、実は他者と連携して行う「育児の体制づくり」がたくさんあります。

例えば、夫に仕事の状況を話してピーク時のフォローを依頼したり、夫妻ともに疲れ気味の場合、このままで大丈夫かと考えて対策を練るなどの「協働の計画と実践」が必要です。また、「明日はどろんこ遊びするから着替えいっぱい持たせて」と頼んだり、その日の子供の体調や様子を伝える等の「育児情報共有」や、緊急時に頼れる預け先の情報を集める、保育園の連絡帳に書き込むといった「家庭外との連携」も必要です。他者と連携して育児の体制づくりのために行っている行為を、「夫」や「保育園」等の単語を隠して見てみると、仕事で求められるものと実はかなり似通っています。

仕事と家庭の関係は、時間を奪い合ったり、ぶつかり合ったり等のコンフリクト(対立)もありますが、お互いにプラスの影響を与えるエンリッチメント(充実)もあることに気づきます。

研究でヒアリングした中には、「子育てを通して、人を見守る辛抱強さを学んだおかげで、後輩の話をいったん受け止めて、様子を見ながら指導することができるようになった」、「パズルのように夫婦での役割分担を決めていく中で、いろいろな制約条件を見ながら、ものを考えて決めるトレーニングができた」、また、「大人になると自分と似た人とばかり付き合いがちなのが、子供を通じて、職場も違う、今まで接点のない人との付き合いも生まれ、異文化への適応力がついた」等の声がありました。

 

<グループワーク>

①親になってから身につけた力や、良い方向に変化したことについて話し合う。

(ダメ出しや批評はせず相槌モードで聞く)

②「どうして?」、「ここはどうした?」等、深掘りする質問する。

 

*参加者から「生活リズムが健康になった」、「タフになって、くよくよしなくなった」等の声

が出ました。

 

●チーム育児のヒントと思考のクセ

(浜屋さんの著書のお話の続きです。)

研究の中で、チーム育児を促すものとして「他人に助けを求めるのはいいことだ」という意識を持っていること、という分析結果が出ました。

 

<グループワーク>(ミニケース「時短勤務のU子さん」)

他人に頼れないU子さんのケースを読んで、その行動にみんなで突っ込みを入れる。

 

グループワークでU子さんの「夫に急なお迎えは無理」といった決めつけや、「自分が連れまわしたから子供が熱を出した」という自責志向に突っ込みが入っていましたね。これらが仕事と育児の両立を邪魔する思考のクセです。これをどうやってひっくり返していけばいいでしょうか。他人の行動には突っ込みを入れられるのに、自分のこととなると、ついつい、こういった思考にはまりがちです。

私自身もかつてはそうでしたが、少しずつ変化してきました。「緊急時にすぐ迎えに来られる人」を書いて小学校へ提出しなければならなくなった時に、思い切って近くの専業主婦の方にお願いしたところ、すぐ引き受けてくれただけでなく「声をかけてくれてありがとう」と言われ、「他人に助けを求めることは悪いこと」という思考の間違いに気づきました。

 

<グループワーク> (アイデア探しワーク)

①「誰か、あるいは何かと協力して育児や家事をするために工夫していること」をそれぞれが付箋に書き出す。

②模造紙に、似た内容の工夫・アイデアを近くになるように貼ってグループで共有する。

③他のグループのテーブルを巡り、いいなと思う工夫・アイデアに、「いいね」シールを貼る。

 

*特に「いいね」シールがたくさんついたのは、以下のような工夫・アイデアでした。

 

・今やらなくていいことはあとまわし / ・アイロン不要服しか買わない / ・完璧を求めない ときには目をつぶる / ・こだわりを捨てる(服の畳み方等) / ・子供に夫をほめさせる /

・スケジュールアプリを夫と共有 / ・土日は育児シフト制。一人時間を作る / ・家事の見える化 分担表を作る / ・上司と移動中にはプライベートの話をする

 

両立のための工夫で、特に推奨したいことは、「自分の状況を上手にシェアしていくこと」です。ご近所さん、夫、上司に、伝えることで理解を持って動いてもらえます。一人で抱え込むのは難しいです。例えば、0歳児がいると平均19日病欠が発生します。自分一人でこれだけ仕事を休めません。病児保育を利用したり、夫婦で分担したり、二の矢、三の矢を用意しましょう。そんな状況は永遠に続くわけではなく、5歳児になるとぐっと減ってきます。

 

●チームは一日にして成らず

育児チームの発達には、メンバーが互いに手探り状態の形成期、意見の食い違いが表面化する混乱期、関係性が安定する統一期、メンバーが自律的に動いてくれる機能期の4つの段階があります。機能期まで進めば終わりではなく、状況が変わって、また形成期から……というサイクルを繰り返します。早めに混乱期に入り、問題を表に早く出すことが大切です。

 

<個人ワーク> (我が家は何から始める)

・自分なりのチーム育児を進めるために「何から始めてみるか」を自分のために書きだす。

 

小さな一歩でよいので、自分なりのチームづくりを意識して、人に頼る練習をして、一歩を踏み出しましょう!

 

―参加者の声―

 

・参加者の皆さんの生活のヒントを知ることができて、とても参考になった。やれることはまだまだあるんだなと思った。

・U子さんの事例で、他の方への突っ込みはできても、自分自身で「こうでないと」とバイアスがかかっている部分があることに気づきました。

・データに基づく&当事者としてのお話で、とても参考になった。

・自分を主語にして語ること、話を聞いてもらうことが、とても貴重な機会となりました。

・周囲に頼ること等、いろいろな気づきがあり、参考になりました。

・私は育休中なのですが、すでに復職している方の話が興味深かった。

・育児は仕事能力のプラスになるという考えがなかったので、新たな視点になりました。

 

(アンケートより一部抜粋)

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