パパママサミット2018 開催レポート(第2部)

   

パパママサミット2018

スタートはいま!我が家の“ちょうどいい”暮らし方・働き方

~「小さい子供のいる暮らし」をふたりで面白くする方法~

第2部|パネルディスカッション

「ふたりの“ちょうどいい”を10年後のエネルギーにー未来志向で、家事シェア・子育て・マネープランー」

◆モデレーター:大崎 麻子(関西学院大学客員教授)

               ◆パネリスト:田中 俊之(大正大学心理社会学部准教授)

         中村 芳子(ファイナンシャルプランナー)

              三木 智有(NPO法人tadaima!代表・家事シェア研究家)

  

パパママサミット2018 第2部はモデレーターに関西学院大学客員教授の大崎麻子さんを迎え、3人のパネリストの方々にご登壇いただきました。

 

―パネリストのご紹介ー

はじめに、パネリストとモデレーターの皆様をご紹介します。

田中俊之さんは大学で男性学を教えていらっしゃいます。男性学は、男性が男性であるがゆえに抱える悩みや葛藤を考える学問です。田中さんいわく、「例えば男性の長時間労働の問題がありますが、その背景には男女の賃金格差があり、こういった問題の改善には男女格差の視点を含めた長期的なビジョンが必要」とのことです。

三木智有さんは、NPO法人tadaima!の代表をされている家事シェアの専門家です。元々はインテリアコーディネーターの仕事をしており、その中で家事や育児を楽しくシェアしているご夫婦はみんな楽しそうに暮らしていると感じたそうです。その経験から現在は家事シェアプロモーターとして講演や企業とのタイアップをしたり、住環境と家事育児はすごく関係があることから子育て世代のインテリア―コーディネートサービスもされています。

中村芳子さんは、ファイナンシャルプランナーです。お金の専門家である中村さんからは、「お金のことは夫婦でしっかり話し合うことが大切で『ハッピーな』お金の使い方が夫婦円満のコツ。とにかくお金で時間を上手に買おう、子供にお金をかけすぎないことが大事」とのお話をいただきました。

モデレーターの大崎麻子さんは関西学院大学総合政策学部の客員教授です。大崎さんからは「生涯を通しての4つのワーク」という考え方をお聞きしました。「4つのワークとは、お金を稼ぐ有償労働と家事や育児や介護などケアに関係する無償の労働、ボランティアや地域活動、そして創造的な活動の4つを指します。このように多角的にワークを捉え、人生100年時代生涯現役でバランスが良く配分されればいろいろな相乗効果も上がってくるのでは」ということでした。

―子育て期間の位置づけー

登壇者の紹介に続き大崎さんから、現役で子育てをしているお父さんである田中さん・三木さんへ、子育て期間を自分の人生の中でどのように位置づけるか、またそういった経験が生き方・働き方などにどのような影響を与えていると思うか、という問いかけがありました。

田中さん(以下敬称を省略します)「まず個人的な話をする前に、大崎さんから“ワーク”ということは多面的に捉えられるのではないか、我々は普段稼ぐこと、会社からお金をもらうことだけを“ワーク”と考えているという話がありましたが、“ライフ”ということももう少し多面的に捉える必要があると僕は思います。」

 

“ライフ”という英語を日本語に訳した場合、生活という意味のほかに ①命 ②生涯 という意味があります。

私たちは働き続けたとしても、60歳、70歳まで。人生はもちろんその後も続きます。

けれども、男性は退職後のビジョンがあまりになく、それまで「働いてさえいればいい」と言われてきたから定年後やることがない人がたくさんいる。真面目に働いてきた人ほど趣味もなくて友達もいない、定年後にどうしたらいいのか分からないという人が多数いるそうです。

 

 

田中「やっぱり僕らは生涯という視点で自分の仕事というものを捉え直す必要があって、それはつまり女性がどう、子供がどう、という話以上に‟僕らの人生ってどうなのよ“という考えです。この視点がない限り当事者意識は持てないですよね。いずれにしても、僕ら男性が仕事というものを、自分の人生トータルの中でどう位置づけるかという視点を持つことが大事。残念ながら僕も趣味と友達はいないのですけれど、子育てにはコミットしていこうと思っているので子育てを通じてそういう視点を持てるかなと思っています」

 

昨年3月に東京から京都へ引っ越しをされたという三木さん。

東京と京都でのコミュニティの作り方の違いなどを実感したそうです。

 

三木「東京と京都で一番違うのがコミュニティの作り方。東京では地域の人たちとは挨拶するだけの関係だったのが、京都ではお隣さんとかご近所さんとかが密接に繋がっていて情報交換をすることが増えました。地域の中で少しずつネットワークができるというのは、地域性というものも関係があるのかなと感じました。東京では娘が産まれた時にママ友やパパ友でSNSグループを作って、出産祝いの代わりにちょっと家事を手伝ってもらったり産後のヘルプをグループでお互いにやったりして、SNSの中に地域の関係性に近いものが生まれたりしました。その方々とは今でも交流があります。隣近所にいるというのは一つの形だと思うのですが、そうでなくてもインターネットを通じてネットワークコミュニティみたいなものを作っていくことができるのかなと思っています。それが大事な資産になっているなあと。お願いをする側はすごく恐縮するけれど、人は助けを求められたり助けてあげた経験の方が幸せを感じると言われていまして、結果お互い仲良くなれたりすると思っています。そういったことが『受援力』(援助を受け入れる能力)に繋がってくるのだと思います。」

 

もちろん昔ながらのご近所付き合いで助け合っていくということもありますが、それには地域性や物理的なものも大きく関係します。三木さんの言うとおり、SNSなどを使ってそれぞれに合ったコミュニティを作るという方法もあります。

 

ー意識の壁ー

中村さんはファイナンシャルプランナーとしてたくさんの相談に乗ってきた経験から、子育てや家庭のあり方、そういった中で縛られている“意識の壁”についてお話しがありました。

 

中村「いろいろな家庭のあり方があって、これが正解というのはないと感じてます。子育てというのは人生100年の中のせいぜい20%くらいなんです。子供が0歳、1歳のときにはこれが永遠に続くのではないかと思ったりするのですが、実は人生のわずか2割しかない。だから、ちょっとマインドを切り替えて、 “大変”じゃなくてどうやって“楽しむか”っていうのを考えるといいんですね。そのためには頼る力がすごく必要になります。誰かにちょっと助けてもらって今しかない子育てを楽しむ。そして助けてもらったら次は助ける側に回る。そうやって楽しむことが大事です。第1部でつるのさんが60代以降に夫婦二人であちこちに行くのを楽しみにしているとおっしゃっていましたが、そういう切り替えができれば今の人生も違って見えてくるのではないかなと思います」

 

大崎さんも中村さんのお話しに共感し、子育てが大変だったこともあるけれど、今二十歳を過ぎた息子さんとお酒を飲みながら仕事の話などをするのがとても楽しいとおっしゃっていました。

それでは、子育て期を“楽しむ”ためにどのように工夫していけばいいのでしょうか。

夫が家事を手伝ってくれると言っても主体的ではなかったり、妻もモヤモヤしたりイライラしたりしてしまうこともあります。そこには社会的な背景も関係しているのではないか、というところから田中さんにご意見を伺いました。

 

―社会的な男性・女性の関係―

田中「社会的な話をすると、結局男性は女性を軽く見ているところがあるんです。どういうことかというと、自分がやろうとすると面倒くさいことを女性に押し付けているというところがあるわけです。例えば、会社で上司が若い女子社員にお土産を配っといてと言ったり、家の中であれば見えない(名もなき)家事問題であったり。自分がやると面倒くさいことを女性に押し付けているってことが問題で、これは家族だけの問題ではないんです。」

 

社会全体が、女性はお世話する側・男性はお世話される側、とやってきた延長線上で「面倒なことの押しつけ」が起こっていると田中さんは説明しました。

 

田中「社会全体が、男性がリードして女性がリードされるという背景がある中で、恋愛の延長で結婚後の関係が作られるのが少しまずいのではないかと思います。恋愛は不平等が楽しい。でも結婚は平等でないとやっていけないのです。」

本来、婚約の期間に二人が平等になるための話し合いをする必要があるのでは、と話されます。

 

田中「基本的に、現在の社会は男女の不平等を背景にしています。夫婦も関係性の中で育っていくのですから、そのことをまず二人が意識化することが大事だと思います。」

 

夫婦になったときにどう変えていくかを話し合って実際に変えることが重要。今までのパターンどおりでは必然的に夫婦関係は必然的にうまくいかない、とのことでした。

 

―家事についての負担と不満―

では、夫婦関係をスムーズにするために具体的にどうすればいいのか?

家事シェア研究家である三木さんにアドバイスをいただきました。

三木「家事のイライラの原因って実は2つあると考えています。それは家事の‟負担“と‟不満”です。負担と不満って何が違うかというと、家事の負担っていうのは手間の部分(ご飯を作る、買い物をするなど)がイライラの原因になってくるパターンです。この負担という部分は、家事代行を活用したり、食洗機を活用したりすればかなり軽減することができます。一方で不満は何かというと、“自分ばっかりが”という不公平感なのです。その解消は、家事代行とか食洗機では無理なんですよね。ではどうやって解消できるかというと、それが夫婦のコミュニケーションやパートナーシップになってくるわけです。「家事の負担で愚痴を言われたからじゃあ家電を買おうという解決策を言っているのに相手に全く響かない」というのは、もしかしたら負担の方じゃなくて不満の方が原因かもしれないということが考えられるのではないかと思っています。」

 

負担と不満。似ているようで全く違います。

三木さんは、負担と不満を解消する方法として「パラレル家事」というものを提案されました。

 

●パラレル家事…パラレル=平行。お互いが平行して家事を行う

三木「一緒にいて一人が家事を頑張っている瞬間、もう一人が暇そうにしていると腹が立つわけです。これは男女差は関係ありません。」

 

パラレル家事とは、例えば料理を作っているときにもう一人は食器を並べる、というようにお互いがチームになってやるべき家事を一緒に終わらせるということです。チームで家事を終わらせることができると夫婦の信頼感や頼りあえる気持ちも高まり、家事シェアも促進していくのではないでしょうか。これは今日帰ってすぐにできることです、と三木さんは話されました。

少し話が広がり、夫婦はどのようにお金を使っていくか中村さんにもお話しいただきました。

 

中村「負担と不満っていうのが出てきて、不満は食器洗い機や家事代行サービスが答えにはならないとのことですけれども、これを夫婦で話し合った上で使うっていうのはすごくプラスになるんですね。時間の余裕が気持ちの余裕になります。そして気持ちの余裕がコミュニケーションにも出ます。二人が一緒のテーブルに着くっていうのは、家事のシェアについてもお金のことを話し合うについてもすごく大切なことなんです。まずはハッピーにお金を使うということが大事だとお考えください。時間をお金で買う、このことに躊躇しないでください。ダメだったらまた家事サービスも掃除サービスも解約してしまえばいいんです。」

 

ーマネープランに関してー

中村「是非実行していただきたいことは、貯金額を夫婦同額にすること。家庭で使うために出すお金についてはいろいろな提案がありますが、私はお金の公平な使い方、取扱い方としては夫婦が同じ額だけ貯金をする形が良いと思っています。それから子供にお金をかけすぎない。私は子供の教育費は親の自己満足の面もあると思います。それを納得した上で、お金をかけたらいいと思います。」

大崎「住宅ローンについても質問として挙がっていますがそのあたりはいかがでしょうか」

中村「住宅ローンに関しては、まずは住宅ローン以外は借りないことがポイントです。そして住宅ローンは年収の4倍まで。それから65歳までに住宅ローンを返し終える。これで計算して「あ、今の家賃とそんなに変わらない」ということであれば買えます。買った後も楽しく過ごせますよ、子供の養育費もちゃんと貯められますよっていうのは年収の4倍までです。」

三木「子育て世代としては住宅を購入した方がいいのかそれとも賃貸の方がいいのか考えると思うのですが、生活のスタイルが変わった結果、住宅が手狭になって家の模様替えを希望するお客様がすごく多いのです。将来の住みやすさや子供の通学や転校の問題も出てくると思うのですが、それらを踏まえても購入というのは大きなメリットがあったりするのでしょうか?」

中村「自分が買いたいか、買いたくないか、その気持ちを大事にするのがいいと思います。家を持つことで精神的に安定感が得られる人もいれば、家を買って住宅ローンを払うことが負担になる人もいる。自分は転々としたいというのであればやっぱり売ったり買ったりするのは面倒でコストもかかりますから、賃貸の方がいいですよね。そのときに私がお話しているのは、損得だけで考えるなということ。損得ではなく、“ここにこういう形で住んだら自分や家族は幸せだ”ということを大切にしましょう。」

 

―提言ー

最後に、パネリストの皆さんに今日のキーワードである「ちょうどいい」について提言を頂きました。

 

●田中さんの提言:「フツメン」

「世の中の理想とされるイクメンというのは家事もします、仕事もします、何ならちょっとおしゃれです、みたいな感じだと思うのですが、そんなことありえないだろうと思うんです。普通の人が育児するということは本当に大変。良いときもあるけど嫌になっちゃうときもいっぱいある。普通の能力の人間が普通に子育てしていく時に周りの助けが足りない。子供を産め産めと言うくせに、産んだら誰も助けてくれないという社会の状況について、小さな子供がいなくても考えていかなきゃいけない。そこまでいろいろできなくてもいいんです、普通の人なんだから、と僕は思います。だからフツメンにとっての育児というものを僕は提唱していきたいなと思います。」

 

●三木さんの提言:「笑っていられる」

「家事シェアや育児の話になると、どうしてもパパは自分とよそのパパを、ママはパパと自分自身を比べてしまいます。そんな中で、どれだけやっている、何やっているという物理的な答えは二人で導き出すしかない。そのときに基準になるのは何なのかというと、なんだかんだで笑っていられる日常が大事なんじゃないのかな。笑っていられるということが、状況はどうあれ僕にとっては“ちょうどいい”という秘訣になるのかな、と思います。」

 

●中村さんの提言:「夫婦が同じ貯金ができる/箱に入らない」

「箱に入らないっていうのは、狭い世界に入ってしまわないこと。追い詰められない、とか『こうでなければいけない』ということに捉われない。私の場合はたまたま夫がアメリカ人だったり外国人の友達がいっぱいいたことで、日本で当たり前のこと、こうあるべきだと言われていることが、実は違うんじゃないのって思って、自分たちに一番いい方法、やりやすい方法で子供を育てられたので楽しかったです。2歳のイヤイヤ期で大変だと思っている方、10年後はもっと大変です(笑)。だから今を楽しんでほしいですね。私も今でも子育てで苦しむことがありますが、この苦しみをいかに楽しむかということが子育ての醍醐味ではないかと思っています。」

●大崎さんの提言:「自分で決めよう」

「私からは、『ちょうどいいは自分で決めよう』と申し上げたいと思います。一人一人、得意なことも、不得意なことも、思考パターンも多様ですから、『ちょうどいい』の基準は自分で決めればいいと思います。つるのさんのお話もそういうことだったと思います。」

 

最後にまとめとして大崎さんから、

「渦中にあると本当に大変だと思います。けれども、子供は巣立ち、振り返れば誰もいなくなる時も来ます。あの時は楽しかったな、というふうに思い出すこともあります。大変な時期には社会のヘルプ、周りのヘルプを受けながら、自分たちの“ちょうどいい”を自分たちで決めていく、という意識を大事にしていきましょう」

というメッセージをいただき、パネルディスカッションを終了しました。

 

―参加者の声(一部抜粋)―

◆プログラム内容も講師もよく、終始関心を持って聞けた。司会の方、モデレーターの方も要点をまとめて下さり、良かった。

◆自分自身も育休を取得したのですが、確かにそうだなと納得させられるような、具体的な話でとても分かり易い講演でした。実体験を伝える大切さを感じました。

◆田中さんのお話が現実、実態を捉えていてとても興味深かったです。

◆現在妊娠中ですが、将来の子育てやお金の事、仕事のことなど、想像がつかない状態でしたが、少しヒントをもらえたような気がしました。

これから育児が始まると、目の前のことで精一杯になると思うが、「人生の2割だ」「夫婦の将来」など長期的な視点に立つことを思い出してみたい。

楽しく仕事も、育児も家事もしたい為、夫を責めることなく、共有、共育したいと思う。

◆いっぱいいっぱいで目の前の育児だけに目が向きがちだったのが、少し先も見据え、夫も含めた家族としての広い視野で考えていけそうです。

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