男性の介護 セミナーA開催レポート

平成29年1月21日(土) 13:30~16:30

◆セミナーA 「“他人ごと”ではない“自分ごと”の介護とは?」
講師:奥田浩美(株式会社ウィズグループ代表取締役)、酒井穣(株式会社BOLBOP代表取締役)

 昨年東京都が発表した『東京都女性活躍推進白書』によりますと、都の要介護・要支援認定者数は平成26年度末で53万人に達し、10年前に比べて19万人増加しています。それに伴い介護者数も増加しており平成24年の数字では女性が37万人、男性が20万人いる中で、介護と仕事を両立させて介護離職を防止することは喫緊の課題となっています。

 セミナー前半は、講師に奥田浩美氏、酒井穣氏を迎えての講演。男性が主体的に介護をする、また働きながら介護を続けるためにどうすればよいか、それぞれの視点から、経験を踏まえたお話がありました。

「未来から来ました」奥田浩美氏講演

 まずは、株式会社ウィズグループおよび株式会社たからのやま代表取締役をつとめ、介護分野におけるロボット検証・共創や、ITを通じて地域格差や高齢化問題などの社会問題の解消に取り組んでいる奥田浩美氏の講演。


 常に未来を見据えた活動を精力的に行い、「失敗も進化の過程」と話す奥田氏。
 一緒に登壇した多機能おしゃべりロボットに「こんにちは」と話しかけるも、返答がなく、3回目でようやく「コンニチハ!」と元気な返事が。こうやって恐れずに失敗をすることで課題が浮き彫りになる、という実例です。

 奥田氏は自身が5年間に及ぶ父親の遠距離介護中であり、介護をはじめてから働き方を変え、自分の課題を社会の課題に変える活動をしてきました。
 その一環として、鹿児島県肝付町におけるICT(情報通信技術)を活用した認知症高齢者徘徊模擬訓練の様子が紹介されました。実施する中で多くの課題が浮かび上がり、地元の多くの人が問題意識を持って関わり続けているということです。

 また、奥田氏は介護におけるコミュニケーションツールとしてのITの重要性を強調。
 その実例として、自身の遠距離介護のさなかに、父親を介護する母親のサポートとして家族で作ったLINEグループ「みっちゃん応援団」があります。
 可愛らしいスタンプを多用したやり取りがスクリーンショットとして映し出されると、会場から笑い声が。
LINEの画面がまるでお茶の間のようになり、離れていても毎日一緒であるように過ごしている様子が参加者にも伝わってきました。

 また、かつて自身の会社で、高齢者向けiPad講座を開いた際のこと。高齢者には大文字・小文字・パスワードといった概念を理解してもらえず、目的を達成できなかったそうです。
 しかし、その失敗談を隠すことなく会社HPに掲載した際に、6400もの「いいね」がつき、意見が寄せられ、たくさんの知恵が集まりました。
 この経験から、ごく身近にある、思わず“ためいき”が出てしまう事象を入り口に、自分の課題を社会の課題とし、絶えず新しい技術を模索すること。この「ためいきレベルのものづくり」の成果を社会に発信していくことで、課題が「見える化」され、同じ課題に共に向かっていく人が増えていき、やがてはチャレンジの主体となっていくことを知った、と話していました。


 自身の介護経験から、「介護とは、整ったと思った瞬間に必要なものが変わる」という言葉がありました。「あ・い・う・え・お(あきらめ、言い訳、後ろ向き、遠慮、思い込み)」に縛られず、まずは動いてみて、自分が納得できることを実行しているそうです。

 「家族の数だけ介護の形がある」と、自分で納得がいくやり方を選び、周囲の人とシェアし、社会に課題として投げかけることが次の時代を作っていくと語る奥田氏の講演は、ガンジーの「あなたが見たいと思う世界の変化に、あなた自身がなりなさい」という言葉で締めくくられました。

「介護は大きな成長のチャンス」酒井穣氏講演

 酒井氏は株式会社BOLBOP代表取締役、事業構想大学院大学特任教授、NPOカタリバ理事を務めながら、自身の20年以上に及ぶ介護経験の知識を共有するために、ビジネスパーソン向け介護情報サイトKAIGO LABを主宰しています。
 冒頭の「介護とはすべての個人に与えられる大きな成長のチャンス」という発言は、参加者にとって特に印象深かったようです。


 

 まず、介護のために離職をした人が再就職をした場合、年収が男性は4割減、女性は半減するという調査結果が挙げられ、介護にともなう負担を軽減するために離職したはずが、かえって負担が増していく現状が提示されました。

 つぎに介護への認識を3つに分類した「介護ジャーニーマップ」が紹介されました

●プレ介護期(介護を軽く考える時期)
     ↓
●介護パニック期(退職を考える時期)
     ↓
●介護安定期(安定した職に感謝する時期)

 
 離職が増える原因は、介護リソースが足りないから。そして、そのリソースは自分で増やしていくしかありません。酒井氏は、介護パニック期の状態がずっと続くと考えてしまう人が離職してしまう、とにかく介護離職をしないことが重要であると強調。
 
 また、男性介護の破たんの原因となる、男性にありがちな点として以下の3点が挙げられました。

1.「助けて」と言えない
2.周りに迷惑をかけまいと、真面目に一生懸命になりすぎてしまう
3.マウンティングを意識するあまり、新しい人間関係の構築に抵抗を感じる

 介護は情報を知らない人が損をする世界であり、せっかくの社会福祉も知らなければ利用することができません。情報を得る相談先として、自治体の窓口、地域包括支援センター、そして地域の家族会があることが紹介されました。
 「男性は、仕事のマネジメントから学んだ理論を、介護に応用して生かすことができる」こと、また、「自分が知っているものを発信すると同時に、情報を得て知識が増えることで楽になる」との説明も。



 
 
 介護を受けている方が、たとえどんな状態でも、「生きててよかった」という瞬間が必ずある、そのために介護をする、という実感のこもった発言には、参加者も大きく頷いていました。 

「“つながることの大切さ”を実感」トークセッション

 後半はトークセッション。冒頭では参加者に「介護に不安を覚える人は?」という質問が向けられ、多くの手が挙がりました。
 講師からは、
 「自分が世界で初めてその問題を見つけたわけではない。必ず同じ問題意識を持った人がいるはずなので、そういう人を一人、二人とコツコツ増やしていく。こういうセミナーでそういう人を見つけることもできる」
 「日本の行政は世界的には優秀で、社会保障制度が整っていないということはまずないので、そのことを知ったほうが介護の課題にも向き合いやすい」という発言がありました。
 とくに、「介護のことで困ったらまず『地域包括支援センター』に行きなさい」というシンプルなメッセージは参加者の心に刻まれたようです。

 その後、参加者にマイクが渡ると、積極的な質問や意見、参加者自身の活動の紹介等が相次いでなされました。
 自身が介護中であり、介護離職をはじめとした大きな問題に直面した経験を持つ参加者が、体験談を語ってくださいました大変だった経験の中でも前向きに過ごしてこられたことや、今日のセミナーで、さらに「介護をすることが自分の成長にもなると認識できた」という発言をされました。
 
 その方の熱い思いが伝わり、会場は静かな興奮と温かな感動に包まれました。講師からも、「ぜひ今日はお仲間を見つけて帰ってください。介護と自分の興味、両方が共通している人が一人でもいれば遥かに違います」という、気持ちのこもった発言がありました。
 
 介護という同じ問題意識を持った人同士、その繋がりの大切さをより実感できる時間となった大変有意義なトークセッションでした。

 

アンケート感想(一部)

■印象に残ったことはどのようなことでしたか?

・男性の特性、仕事上の経験を生かした介護の対処方法には思い当たり印象深く感じた。

・家族の数だけ介護の形があるということ。

・普段聞けない話が聞けました。内容も新鮮です。LINEを使ったコミュニケーションなど面白かったです。

・ビジネスと介護というと金儲け主義の介護社会というようなイメージが強かったが、そのイメージが覆った。大変なことだけど面白く学べた。

・介護だけ、それにとらわれず、今何をしたらいいのか?何ができるか?(人生観を考えられて楽しめました)

■介護のイメージは変わりましたか?

・様々な情報が得られたので、自分から迷いを減らして情報を集めるきっかけを頂けました。

・仲間を作る事。仕事はやめない。

・「生きてて良かった介護」が本当の介護だと初めて認識することができた。

・まず学ぶことが自分を助けてくれるということが救いとなった。

・家族や地域のサポート以外にロボットやITを取り入れた介護という視点をもらった。

・公的支援が充実していること。

・自分ひとりで全てを背負わなければいけないという考えで非常に不安を抱えていたが、様々なサービスを協力者の方々とアレンジしながら利用していけばいいと分かりました。


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